探偵・興信所は個人の情報を調べることができるか市役所や税務署、警察等では、住民のいろいろな情報を管理していると思いますが、探偵・興信所ではこれを調べることができるのでしょうか。
口法律・判例戸籍・住民票・税金・前科等犯罪の情報など、国や地方自治体は行政運営上さまざまな個人情報を保有しています。これらの情報が誰でも自由に得られるとすると、私たちのプライバシーはないも同然です。従前、戸籍法一〇条では、「何人でも、戸籍の階本若しくは抄本・・・・・の交付の請求をすることができる」と、原則的には誰でも戸籍謄本等の交付を受けることができるが、戸籍謄本等の請求が不当な目的によることが明らかなときはその請求を拒めるとされていました。平成一九年五月に戸籍法が改正された結果、戸籍に記載されている人か、その夫・妻、子ども、孫、両親等近親者以外の者からは弁護士等を除いて、原則として交付請求できなくなりました権行は公布の日から一年六カ月以内。ですから、探偵・興信所では、戸籍を調べて出身地や家族歴等を調べることはできないことになります。また前科の照会に関しては、最高裁判例昭和五六年四月一四日判決・判例時報一〇〇一号3頁で「前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」としていますので、前科照会も探偵・興信所がすることはできません。⬜︎個人情報保護法等以上のように、役所で管理されている個人情報については、みだりに流出しないよう規定がされプライバシー保護の視点で判例も出ています。しかし、国や地方自治体の有する個人情報がすべて十分に保護されているという状況とは、必ずしもいえない部分があります。平成一七年に個人情報保護法が施行され、それと同時に、行政部門に関しては「行政機関個人情報保護法」、独立行政法人たとえば従前の国立病院には「独立行政法人個人情報保護法」が施行されています。また、地方自治体では、それぞれ個人情報保護に関する条例が制定されています。探偵・興信所が行政機関から個人情報を取得する場合には個人情報保護法に定められた取扱いに従わなければならず、行政機関等は行政機関個人情報保護法に基づいて、保有している個人情報が適正に取り扱われるようにしなければなりません。しかし、これらの法令による保護は、十分ではないとの指摘もあります。また住民基本台帳ネットワーク住基ネットは、すべての住民に一一桁の番号からなる住民票コードをつけて、その個人に関する情報をコンピュータを通じて一括管理するシステムですが、国や地方自治体にあるさまざまな個人情報が集約されれば、私たちの個人情報が丸ごと監視される危険につながるとして、その違憲性が裁判で争われています住基ネットがプライバシー権を侵害するとしたものに大阪高裁平成一八年一一月三〇日判決・判例集未登載等、侵害しないとしたものに名古屋高裁金沢支部平成一八年一二月一一日判決・最高裁ホームページ等。本書の内容からは少し外れる問題ではありますが、先に述べたようにプライバシー権は私たちが人間らしく生活するための基本となる権利であり、行政における個人情報管理の方法についても関心をもつ必要があるのではないでしょうか。