探偵事務所や興信所はどのようなことをするのか探偵や興信所のポスターなどをよく目にします。人捜しをするなどという話を聞きますが、実際にはどのような仕事をしているのですか。また、探偵事務所と興信所とは違うのでしょうか。
2025/09/05
一般的には、興信所は企業の依頼を受けて取引先の信用調査などを行い、探偵事務所は個人の依頼を受けて身上調査や素行調査などを行うものと考えられています。しかし、両者は必ずしも厳密に使い分けられているわけではありませんし、業務区分も必ずしも明確ではないようです。平成一八年六月八日に公布され、平成一九年六月一日より施行された探偵業法では、探偵業務とは「他人の依頼を受けて、特定人の所在又は行動についての情報であって当該依頼に係るものを収集することを目的として面接による聞込み、尾行、張込みその他これらに類する方法により実地の調査を行い、その調査の結果を当該依頼者に報告する業務をいう」同法二条一項とされており、従来、探偵事務所の業務と考えられていた内容を採用しています。なお、この法律が規制の対象としている探偵業の範囲については、第二章Q2を参照してください。口業務の内容一般的にいって、興信所は、企業の信用情報の調査として法人登記簿や決算書類の調査、役員との面接調査等を行います。他方、探偵事務所は、個人の所在や素行に関する調査として戸籍・住民票等調査、聞き込み調査、尾行や張り込みなどを行い、場合によっては盗聴や盗撮を行うことがあります。このように興借所と探偵事務所とは業務内容で大まかに分けることはできますが、実際には興信所が個人の所在調査や素行調査を行うこともあり、前述のように両者の間の業務はクロスオーバーしています。口信頼できる業者調査を依頼する側からすれば、必要とする情報を短時間で、しかも低廉な料金で入手してくれる業者が一番頼りになる業者ということになります。電話帳広告を載せたり、ホームページを開設したりして自社の宣伝に熱心な業者もいます。しかし、小ぎれいな広告やホームページを開設している業者が必ずしも倍頼できる業者であるとは限りません。本当に信頼できる業者とは、できることとできないことの内容を正直に説明し、料金体系についてもわかりやすく説明してくれるところです。すぐに依頼をするよりも、いくつかの業者の説明を聞いたうえで、信頼できる業者かどうかを見極めて依頼すべきです第二部第一章Q12~Q16参照。
家庭裁判所に判決を下してもらう ―裁判離婚の場合
2025/09/05
裁判離婚は、協議離婚、調停離婚すべてが成立しなかった場合、離婚訴訟を起こし、裁判所が判決を下すものです。日本では法律上、調停前置主義が採用されており、裁判をするにあたってはあらかじめ調停をし、話合いがまとまらずに「不調」に終わっていることが離婚裁判をする条件となります。離婚裁判を起こすには、以下の法的に認められた離婚の理由(法的離婚事由)が必要です。・不貞行為(浮気)・悪意の遺棄・3年以上の生死不明・回復の見込みのない強度の精神病・その他婚姻を継続しがたい重大な事由離婚請求は、未成年の子どもがいる場合には、親権者をどちらかに指定する必要がありますので、親権者をどちらに定めるのかを記載するとともに、養育費や財産分与、慰謝料などの請求を併せて行うことができます。離婚訴訟を提起するにあたっては、訴状を作成し、夫婦どちらかの住所の管轄の家庭裁判所へ提出して訴訟をします。協議離婚や調停離婚においては当事者間だけで行うことがありますが、離婚訴訟までいくと、なかなか自分で対応するのはむずかしいため、弁護士に依頼される方が非常に多いです。家庭裁判所に訴えの提起をすると、1回目の口頭弁論の日にちが決められ、相手方(被告)に口頭弁論期日呼出状が送られます。同時に被告には、訴訟を起こした人(原告)が裁判所へ提出した訴状の写しが届きます。被告は原告が作成した訴状を見て、それに対する反論の書類(答弁書)を作成します。1回目の口頭弁論では、訴状(原告がつくる)、答弁書(被告がつくる)の内容を確認し、裁判所が問題点を整理して、夫婦(原告と被告)それぞれに反論があれば書面(準備書面)にまとめて証拠と併せて提出するように指導があります。2回目以降の口頭弁論は月1回程度のペースで開かれ、双方の主張を出し合います。原告・被告が作成した準備書面の内容を確認し、食い違いがあれば、提出した証拠、尋問などを通じて事実を確かめていきます。本人(原告)尋問の場合、主尋問(原告側の弁護士から原告へ質問する)、反対尋問(被告側の弁護士から原告へ質問する)、裁判官からの質問を行い、被告の尋問についても同様に行います。財産分与の請求をする場合、財産分与の対象となるのは、夫婦共有財産であり、夫婦どちらの名義であるかにかかわりません。また、夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定されます。具体的には、夫婦いずれかの名義であり(ただし、未成年の子の名義であっても、夫婦の支出による財産などは夫婦共有財産に含まれます)、婚姻期間(婚姻から別居の日まで)に形成された財産です。婚姻前に形成された財産や、婚姻期間中であっても相続等で得られた財産は、特有財産であり、夫婦共有財産には含まれません。夫婦共有財産の具体例としては、不動産、車、預貯金、有価証券、投資信託(解約返戻金)、生命保険(解約返戻金)、学資保険(解約返戻金)、企業年金、退職金、住宅ローン、負債などが挙げられます。退職金や企業年金については、すでに支給されている場合には財産分与の対象となります。将来支払われる退職金については、近時財産分与の対象とする傾向にあります。しかし、数十年後に退職するような場合には、今後の勤務状況や会社の経営状況などに不確定な要素が多く、対象とならないと判断される可能性が高いです。夫婦共有財産の価格は、別居日を基準とします(別居せずに離婚した場合は離婚が成立した日)。したがって、預貯金や負債などは別居日の残高が明らかになる通帳コピーまたは残高証明書などが証拠となります。保険等の解約返戻金の証明書を取得する場合には、別居日を指定して取得する必要があります。不動産については、別居日ではなく、現在(離婚時)の実勢価格の査定書で足りるとする取扱いがなされることが多いです。なお、不動産の価格について、当事者に争いがある場合には、鑑定が行われる場合もあります。鑑定による場合、ある程度信頼できる価格が得られるというメリットがある反面、時間と費用がかかるというデメリットがあります。分与の割合は原則として2分の1です。裁判の終了方法には、「判決」(原告の離婚請求を認めるか否かを決定すること)と「和解」(裁判官が仲介役となって双方が納得できる解決策を見出すこと)があります。こうして判決確定、和解成立した場合、離婚が成立します。これに対して、裁判によっても離婚が成立しなかったり、離婚は成立しても慰謝料などで希望する額の支払が認められなかった場合などは、これを不服として控訴の申立てをすることができます。控訴の申立ては訴訟をした家庭裁判所の上級の高等裁判所に申し立てます。控訴を提起できる期間は判決書が届いてから2週間です。控訴審でも望ましい結果を獲得できなかった場合、次は最高裁判所に上告することとなります。判決で決着した場合、判決書が送られてきた日から2週間以内に被告が控訴しなければ判決が確定し、判決が確定するのと同時に離婚も成立します。判決が確定してから10日以内に、「判決書謄本」「判決確定証明書」とともに離婚届を市区町村役場へ提出します。和解で決着した場合、裁判所によって「和解調書」が作成されると同時に離婚が成立します。和解が確定してから10日以内に、「和解調書謄本」とともに離婚届を市区町村役場へ提出します。ちなみに、判決・和解ともに離婚届に相手方の署名捺印は必要ありません。和解や判決で離婚が成立した場合で年金分割を認める条項があったとしても、自動的に年金分割がされることはなく、当事者が判決書謄本、判決確定証明書、あるいは和解調書謄本を持参して年金分割の請求をしなければなりません。離婚成立日の翌日から2年以内に請求することが必要ですので、注意してください。
家庭裁判所の調停で決める ―調停離婚の場合
2025/09/05
離婚協議そのものができない場合や、離婚することに同意していても親権や財産分与などの条件面で折り合いがつかない場合には家庭裁判所に夫婦関係調整調停(離婚調停)を行います。調停で年金分割を請求するためには、「年金分割のための情報通知書」を提出する必要があります。年金分割のための情報通知書は、厚生年金の場合は、年金事務所に請求をし、共済年金の場合は、各共済組合に請求をする必要があります。調停離婚の進め方は、まず家庭裁判所で「夫婦関係調停申請書」を入手し、記入したら家庭裁判所に提出します。申立てには戸籍謄本、収入印紙などが必要です。申立て後、1か月程度で夫婦それぞれに対し裁判所から呼出状が届きます。調停は通常平日の日中に、夫婦別々で行われます。調停では公平な立場で男女それぞれ1名ずつの調停委員と、裁判官1名が間に入り、両者の言い分を聞きながら話合いを進めていきます。裁判ではないので、あくまで双方の意見を調整するために第三者が入るだけです。したがって自分の主張は誠意をもって説明しなければなりません。夫婦別々に話を聞いてお互いに納得のいくようにまとめるので時間がかかると思っておいてください。ちなみに、調停の場に同席が許されるのは弁護士のみです。弁護士においては同席だけではなく、代理人として単独で出席することも可能です。調停は双方が合意するまで行われ、合意できれば調停の詰合いの合意内容を「調停調書」にまとめ、離婚届とともに市区町村役場に提出します。調停調書があれば、相手方が養育費の支払などの約束を守らない場合に強制執行することができます。このように調停離婚の場合、調停調書により、相手方からの支払の確実性が期待できますので、協議で離婚できる夫婦であっても調停にしておくほうが後のトラブルを回避できるという意味ではよい方法です。調停で離婚が成立した場合で年金分割を認める条項があったとしても、自動的に年金分割がされることはなく、当事者が「調停調書」を持参して年金分割の請求をしなければなりません。離婚成立日の翌日から2年以内に請求しないといけないので注意してください。
夫婦の話合いで決める ―協議離婚の場合
2025/09/05
協議離婚は、日本の離婚全体のほとんどを占めており、もっとも一般的な離婚手続です。協議離婚は、夫婦の話合いにより決めます。夫婦だけの話合いにかぎらず、互いに弁護士に依頼をして、合意をした場合にも、協議離婚となります。合意ができれば離婚届を市区町村役場に提出すれば離婚が成立します。離婚届は、必要事項を記入し、夫婦双方、そして証人として成人2名による署名・捺印が必要です。未成年の子どもがいる場合、親権者を記入する必要があります。この欄が白紙だと受理されません。たとえ相手方に非があっても、夫婦双方の合意がなければ協議離婚をすることはできません。もちろん、離婚届を一方的に出すこともできません。夫婦の一方に離婚の意思がなければ、家庭裁判所に離婚の調停を申し立てることになります。協議離婚に向けた話合いの中でも、慰謝料、財産分与、年金分割、養育費、婚姻費用など直接お金にかかわる要件についてあいまいにしておくと後になってトラブルになる可能性が高くなります。トラブルを避けるためには、それぞれについて金額と支払期日を決めておきましょう。このほか子どもの親権者・監護者、面会交流権についても決めておく必要があります。口約束だけに終わらせないようにするためには、これらの内容を離婚協議書としてまとめ公正証書にしておくとよいでしょう。公正証書が作成されると慰謝料や養育費などのお金が約束どおりに支払われなかった場合でも、合意した内容が裁判所の判決と同じ効力がありますので、強制執行で預貯金や給料などを差し押さえることができます。協議離婚をする際に合意により年金分割手続をとる場合、公正証書を作成する方法以外に、2008年4月1日から、当事者双方が年金事務所に出頭して合意書を提出する方法も可能になりました。この場合、年金事務所で取得する所定の合意書に記載して本人確認書類(①運転免許証、②パスポート、③住民基本台帳カード<顔写真付にかぎる>、④印鑑及びその印鑑に係る印鑑登録証明書、のうちいずれか一つ)を持参して提出します。出頭を代理人に委任することもできますが、その場合には年金事務所で取得する所定の委任状に記載し、委任者本人が署名捺印(実印にかぎられます)し、委任者は、委任者の印鑑登録証明書及び委任者の本人確認書類(①運転免許証、②パスポート、③住民基本台帳カード<顔写真付にかぎる>、④印鑑及びその印鑑に係る印鑑登録証明書、のうちいずれか一つ)を持参することが必要です。
子どもの戸籍・氏は手続をしないと変わらない
2025/09/05
母親が親権者で旧姓に戻った場合には、親権者である母親と子どもの戸籍・氏が異なってしまうという事態が生じてしまいます。これは父母が離婚しても、子どもの戸籍はもとのままであるため氏も変わらないからです。子どもの戸籍は、何もしなければ婚姻前のままであり、自動的に親権者である親の戸籍に移動することはありません。そして、子どもと親の氏が異なる場合、子どもは親の戸籍に入ることができません。つまり、離婚して旧姓に戻った妻が親権者となって子どもを自分と同じ戸籍に入れるには、子どもに自分と同じ氏を名乗らせる必要が生じるのです。その場合、家庭裁判所に対して「子の氏の変更許可」の申立てを行い、許可を得たうえで、入籍届を出し、子どもの氏を自分の氏と同じにします。子どもが15歳以上の場合には、子ども本人が家庭裁判所に申立てを行うことになります。なお、親が婚姻前の戸籍に戻った際に、親がその戸籍の筆頭者ではない場合(親の両親のどちらかが筆頭者であるケースがほとんど)には、子どもがその氏を変更したとしても、その戸籍に入ることはできません。親が復籍した戸籍の筆頭者がその親の両親であると三世代の戸籍になってしまいますが、その場合、「戸籍は『夫婦及び夫婦と同じ氏にする子ども』(二世代)でつくられること」と定められた戸籍法6条に反することになるからです。このケースにおいて、親と子の氏を同じくする場合には、子どもの親を筆頭者とする新しい戸籍をつくる必要があります。
戸籍と氏の決定旧姓に戻れば婚姻前の戸籍に戻る
2025/09/05
離婚した後の氏(名字)、戸籍をどうするのかについては、婚姻によって氏の変更を迫られる側にとって避けられない問題です。氏については、旧姓に戻るか、そのままの姓を名乗るかどちらかの選択も可能です。婚姻により氏が変わった人は、離婚をすれば婚姻前の氏(旧姓)に戻ります。離婚した後にも婚姻時の氏をそのまま使いたい場合は「離婚の際に称していた氏を称する届」を出せば、そのまま名乗ることができます。ただし、離婚後3か月以内という制限がありますので注意が必要です。3か月を過ぎた後でも、家庭裁判所に対して「氏の変更許可の申立て」を行えばよいのですが、その場合には、社会生活上の不利益・不便が生じていることを客観的に示す「やむを得ない事由」が必要になりますので、3か月以内に届を出すのを忘れないようにしたほうが簡便です。では、戸籍についてはどうなるでしょうか。これは、婚姻前の氏(旧姓)に戻った場合と、氏を改めなかった場合で異なります。戻った場合、原則として婚姻前の戸籍に戻ります。改めなかった場合は、結婚時の戸籍にとどまることになります。
子の引渡し
2025/09/05
子どもをもつ夫婦が別居したときや離婚して別に暮らすようになったとき、離れて暮らす親が子どもを連れ去ってしまうことがあります。このような場合、当事者同士の話合いでは解決しないことが多いため、監護権者である親は、家庭裁判所への調停、審判を通じて子どもを自分に引き渡すように求めることができます。ただし、「子の引渡し」は、引き渡される子ども側からすれば、現在一緒に暮らしている親と離れなければならない、住んでいる場所からも引っ越さなければならない、などの不利益が伴う場合があります。ですから、子の引渡請求の判断にとっては、子どもが現在置かれている状況などを考慮し、子ども自身の幸せを第一に考えることが大切です。したがって、子ども自身の意思を尊重するとともに、子どもの成育環境、父母の監護能力や経済力、健康状態、居住環境などの事情も考慮されます。なお乳幼児であれば、特段の事情がないかぎりは母親と一緒に暮らしたほうがいい、とされています。ですから、母親の浮気が原因で離婚に至ったとしても、子の引渡請求に影響はありません(浮気相手に夢中になり育児を放棄していた場合などは別です)。ただ、以上のような過程を経て、調停や審判で子どもを引き渡す結論が出たとしても、相手方がかたくなに拒んでいる場合、現実に子どもを取り戻すのは容易ではありません。このようなケースのときには、裁判所に強制執行を申し立てることができます。その方法には「間接強制」と「直接強制」の2種類があります。間接強制は、引き渡さない親に対し、「引き渡すべき日までにつき◯◯円を払え」という内容のいわば罰金の支払を命じる方法です。それでも支払わない場合は、財産の差押えも可能です。直接強制は、裁判所の執行官が、現地に赴き、直接子どもを引き取る方法です。ただし、ここでも子どもが嫌がるケースもあり、あくまでも子どもの気持ちに配慮することが一番大事です。
強制執行について
2025/09/05
当事者間の話合いによって、相手方が離婚に伴う慰謝料、財産分与、婚姻費用や養育費などの金銭の支払を約束したとしても、相手方がそのとおり支払ってくれるとはかぎりません。特に養育費などは、長期間にわたって相手方から支払を受けるものなので、離婚直後は支払っていても、時間が経過すると支払わなくなることもあります。このことは、執行認諾文言のある公正証書を作成した場合や、裁判所の手続である調停や審判、裁判によって金銭の支払が決まった場合でも同じです。そのため、せっかく時間と手間と費用をかけて調停や裁判をしても、満足のいく結果が得られたとしても、相手方が任意に金銭を支払わず、かつ相手方の財産がまったくわからない、または、相手方にまったく財産がない場合には、1円も回収できず、金銭の支払を定めた箇所については、調停調書や判決が何の意味ももたなくなるといった事態に陥ってしまうこともあります。このように、合意や裁判所の判断があるのに相手方がその支払をしない場合、別途、「強制執行」という手続をとり、強制的に相手方から金銭を回収しなければなりません(当事者間の合意で、かつ公正証書が作成されていない場合は、まず訴訟を提起し、その後、強制執行をする必要があります)。しかし、強制執行といっても、ただちに裁判所に強制執行の申立てなお、給料の差押えについては、通常の差押え(賃金や売掛金など)の場合には、給料の4分の1までの差押えに制限されていますが、養育費の場合には、その重要性から2分の1までの差押えが認められています。強制執行は、事前にどれだけ相手方の財産を把握できているかで、その成否が大きく変わってきます。慰謝料や養育費などでは、相手方に支払を約束させたり、調停や訴訟で満足のいく結果を得ることを最終目標とするのではなく、あくまで相手方にその金銭を支払わせるということを最終目標として、強制執行までしなければならない事態も想定した対応が重要となります。
養育費を支払っている夫が再婚した場合
2025/09/05
養育費を支払っている夫が再婚し、新たに扶養するべき家族ができたため、これどおりの養育費は支払えない、といわれることもあります。この場合、たとえば、夫の浮気が原因で離婚することになったのに、その不倫相手の子どもを養育しなければならないから、養育費を今までどおり支払っていると生活ができない、養育費を減額してほしいといわれても、妻の立場からすると到底納得できるものではないと思います。しかし、養育費と離婚原因とは切り離して考えられるため、新たな扶養を考慮してもなお変更前の養育費が正当な額といえるなどの事情がなければ、養育費の減額が認められることが多いと考えられます。ただ、養育費を定める際に、すでに夫が不倫相手と結婚、連れ子と養子縁組をすることが決まっている、または不倫相手がすでに夫の子を妊娠しているなど、離婚後、夫に新たな養育義務が発生することが予定されている、あるいは十分に予想できた、この状況を前提に養育費を定めたと考えられる場合には、実際に、新たな家族の養育によって、夫の支出が増えたとしても、そのことは、養育費を定める際に十分に考慮に入れて金額が決定されているため、そのほか事情の変更がないのであれば、養育費の減額をすべき「事情の変更」がないとして、養育費の減額が認められないと考える余地はあると思われます。
再婚と養育費について
2025/09/05
養育費を受け取っている妻が再婚した場合妻が再婚した場合、養育費を支払っている夫から、養育費を支払わない、または減額するといわれることがあります。妻の再婚相手が、子どもと養子縁組をすると、当然その再婚相手は、養子にした子どもを扶養する義務を負い、現に養育する再婚相手が全面的に子どもを養育することになるため、原則として、養育費を支払っていた前の夫(実親)は、養育費を支払う必要がなくなります。しかし、養子縁組がされた後も、実親が子どもの親であるという点に変わりはないため、妻の再婚相手に十分な収入がないなど、再婚相手では十分に子どもを養育できない場合には、実親は引き続き養育費を支払う必要があります。次に、妻の再婚相手が子どもと養子縁組をしていない場合、再婚相手には、妻の子どもの扶養義務は発生せず、引き続き、実親である前の夫が養育費を支払っていくことになります。そして、養育費の計算方法は、権利者である妻の収入が基準となるため、再婚相手に十分な収入があっても、形式的にはその再婚相手の収入は考慮されません。しかし、妻の再婚相手に十分な経済力があることは、事情変更の有無の判断にあたって考慮される一つの要素になるとは考えられます。
養育費は増額・減額できるのか
2025/09/05
養育費の取決めがされていても、離婚から月日が経つと事情が変わり、養育費の増額・減額などの必要性が出てくることがあります。その場合は、当事者間での話合いで決めたり、家庭裁判所に養育費増額・減額請求をします。この請求は、家庭裁判所に対して調停の申立てを行い、調停での協議が整わなければ裁判所による審判で決定されることになります。審判で増額・減額を認めてもらうためには「事情の変更」が必要となります。また、この「事情の変更」もある程度重要なものである必要があり、かつ、変更前の養育費決定の場面で前提とはされていなかった事情でなければなりません。「事情の変更」の具体例としては、それぞれの再婚のほかに、それぞれの収入の変動が典型的なものとして考えられます。子どもの教育費については、子どもが就学し、学費がかかるようになったことを理由に増額を求めた事案について、そもそも子どもが学費を多少増加する程度のことは養育費算定に際して十分に考慮されているとして、増額請求を認めなかったものもあります。養育費を増減額すべき事情の変更があるかどうかは、個別具体的な事情を考慮して判断されることになります。
額は養育費算定表を目安に
2025/09/05
実際の養育費の金額については、夫婦(代理人)間で話合いをし、話合いで決まらなければ離婚調停において金額や支払方法を協議します。もし、調停で話合いをしても決着がつかないときは、審判で(離婚訴訟と同時にであれば離婚訴訟の中で)裁判官に決めてもらうことになります。金額については、支払う側(義務者)・もらう側(権利者)の収入、負担能力などを考えて決めていきますが、そのために多くの資料をそろえる必要があり、算定に時間がかかります。そこで、多くの場合、義務者・権利者の収入、子どもの人数、年齢に応じて標準的な養育費を算出できるようにした「養育費算定表」を使うことになります(167〜175ページ参照)。話合いで合意ができれば、養育費算定表の金額以上をもらえることもできます。養育費は、原則として別居後請求した時点からしかもらうことができ、それより過去にさかのぼって請求することはできません。また、養育費が請求できるのは原則として子どもが20歳になるまでですが、個別に両親の学歴などの家庭環境や資力を考慮して定めることもでき、たとえば、大学卒業までと考えるのであれば「未成年者が満22歳に達した後の最初の3月まで」などのように定めることもできます。養育費の支払は、月払が原則ですが、当事者間の合意があれば、一括払とすることもできます。ただ、一括払とした場合、贈与税が課されることもありますので、事前に税理士等への相談が必要な場合もあるでしょう。養育費が支払われない場合、家庭裁判所から支払をするよう相手方に勧告・命令をしてもらえますが、強制力はありません。相手方が任意に支払をしてくれない場合は強制執行を行う必要があります。離婚調停や離婚審判等で取り決めた場合はもちろん、養育費について執行認諾文言付きの公正証-書を取り交わしている場合には、別途裁判をすることなく強制執行をすることができます。